映画作品では頻繁に使用される化学兵器。しかし、現実を知ればそれが如何に危険なことか理解できるようになるはずです。使用が禁止されて以降もテロ行為に使用され、私たちも化学兵器の被害にあわないとは言い切れません。
今回は大量破壊兵器のひとつ「化学兵器」の詳細をご紹介します。
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目次
化学兵器
化学兵器とは
化学兵器とは、生物由来でない化学毒を使って人を殺戮する兵器のひとつで、核兵器、生物兵器と合わせて「大量破壊兵器」と呼ばれています。化学反応によって人体に有害となる物質を利用することから化学兵器の名前が付けられました。
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化学兵器は毒性物質をガス状、液体状、霧状に加工したうえで爆弾やロケットに装填して使用されます。神経系に障害を与える薬品が使われることから被害者は生存の可能性が低く、仮に生き残ったとしても重度の後遺症に苦しめられることになりました。その非人道的性質から現在では他の大量破壊兵器と合わせてその使用が厳しく制限されています。
化学兵器の利点
化学兵器は核兵器に比べて生産が容易なことに加え、コストパフォーマンスにも優れていました。また、生産方法がその他の兵器とは異なるため、火器工場を圧迫することなく並行して生産することができました。兵器としても優秀で高い殺傷能力があるだけでなく、使用場所に毒素が残存するために敵の行動を制限する効果もありました。何より恐怖により敵陣の士気を下げる効果があったのです。
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化学兵器の欠点
化学兵器の最大の欠点は効果範囲が風や雨などの天候によって変化することです。風に至っては毒素が飛ばされてしまうため、敵兵ではなく自軍や民間人に被害が及ぶ危険性がありました。
また、近代ではガスマスクが軍の標準装備になったこともあり効果が薄くなっています。さらには使用場所周辺の自然環境にも深刻な影響を与えてしまうという重大な欠点もありました。
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化学兵器の種類
化学兵器には致死性兵器と非致死性兵器の2種類が存在します。しかし、非致死性兵器でも毒素の濃度が濃ければ人を死に至らしめます。ここでは化学兵器の種類についてまとめています。
致死性の化学兵器
①神経剤
神経剤は、有機リンなどを使用して神経伝達に障害を与える化学兵器です。神経ガスなどがこれに当たります。脳神経よりも筋肉神経にダメージを与えることにより痙攣や嘔吐、呼吸困難などの症状を誘発します。激しい嘔吐や昏睡状態に陥った後、呼吸ができずにそのまま窒息死します。映画などでもよく登場する神経ガスですが、非常に恐ろしい兵器だったんですね。
②窒息剤
窒息剤とは文字通り呼吸器官に障害を与えることにより、呼吸困難を引き起こす化学兵器です。塩素ガスによって肺の細胞から水分を排出させ、呼吸不全により対象を死亡させます。被害者は仮に生き残っても一生肺に障害を持つことになります。呼吸困難は最も苦しい死に方のひとつといわれています。
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③血液剤
血液剤とはシアン化水素などにより細胞内のミトコンドリアにダメージを与える化学兵器です。ミトコンドリアは血液から細胞に酸素を運ぶ役割がありますが、血液剤を使われるとこれが行われず、細胞から対象を死亡させます。細胞から死亡するとは想像を絶しますね。
④糜爛剤
糜爛剤(びらん剤)とは、有機ヒ素化合物によって皮膚にダメージを与え激しい炎症やただれを引き起こす化学兵器です。ガスマスクを着用している敵兵も負傷させることができ、吸い込めば肺がただれて死に至ります。見た目にも凄惨な化学兵器ですね。
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非致死性の化学兵器
①催涙剤
催涙剤とは、一般的に「催涙ガス」と呼ばれるもので粘膜に付着することで涙やくしゃみ、嘔吐などの症状を誘発します。その即効性と後遺症を残さない性質から軍や警察でも例外的に使用が許可されている他、市販で購入ができる国も存在します。日本でも買える化学兵器ですね。
②嘔吐剤
嘔吐剤とは、アダムサイトなどにより激しい嘔吐やくしゃみを誘発させる化学兵器です。別名「くしゃみ剤」とも呼ばれています。催涙剤と同じく吸い込んだり目に付着することで症状が現れます。旧日本軍も製造していた有名な化学兵器です。
③無力化ガス
無力化ガスとは、幻覚症状など引き起こす化学兵器です。精神的、生理的障害が発生し、対象の行動を著しく制限することからこの名前で呼ばれています。
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化学兵器の使用事例
化学兵器は防護設備や器具のない時代には絶大な効果を発揮しました。一度に大量の敵兵を殺すことができることから、過去の戦争でも使われてきた経緯があります。また、破壊的思想のテロ行為にも使用されました。ここでは実際に使用された化学兵器の使用事例についてご紹介します。
①ペロポネソス戦争
人類史上最古の化学兵器はペロポネソス戦争と呼ばれる紀元前400年頃に起こった戦争で使用されました。この戦いは古代ギリシア全域を巻き込んだ非常に大規模なものでした。その中でスパルタ軍が亜硫酸ガスを戦争に利用します。これが人類が初めて使用した化学兵器だといわれています。
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②第一次世界大戦
第一次世界大戦では化学兵器が積極的に使用されることになりました。1914年以降、ドイツ、イギリス、フランスは催涙ガスの実戦導入を開始します。当時、先進的な毒ガス開発技術を持っていたドイツ軍はロシア軍やフランス軍に対して300トンにも及ぶ塩素を散布しました。第一次世界大戦の化学兵器による死傷者は130万人にも達し、世界中にその驚異を知らしめることになりました。
③第二次世界大戦
第一次世界大戦の影響で各国のガスマスクや防護服装備は充実することになります。そのため、第二次世界大戦では化学兵器は積極的に導入されることはありませんでした。しかし、大陸間ミサイルや航空技術の発達により化学兵器の存在感は非常に強く、その恐怖は民間人を恐怖に陥れたそうです。
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④オウム真理教
1994年、日本の宗教集団オウム真理教によって神経ガス「サリン」が散布され、8人の死者と660人の負傷者を出しました。この事件は世界初の化学兵器を使ったテロ事件として世界中で注目されることになります。これ以降、テロリストが化学兵器を使用する事件が発生するようになりました。
化学兵器の問題
化学兵器はその他の大量破壊兵器と同様に、使用されなくなった後も深刻な問題を残しています。核兵器ほどではありませんが、処理には非常に注意が必要だったからです。核兵器に比べて生産が容易だったため、多くの化学兵器が残されたことも問題を深刻化させました。
一部の化学兵器は紫外線や太陽光により安全に処理が可能でしたが、中には毒性が長期間残るものも存在し、廃棄の際に環境に与える影響が心配されました。また、他国領域に残された化学兵器の処理も国際問題になっています。旧日本軍が使用した化学兵器の多くは中国に残されたままになっており、日本と中国の関係に溝を作るひとつの要因になっています。
いかがでしたか?化学兵器に限らず兵器や武器はそもそも所持しないことが一番です。それが実現する社会にしていきたいですね。