神の使いとして各宗教で伝承が残る「天使」。愛くるしい姿でキャラクターなどにも使われている天使は世界中で愛される不思議な存在です。しかし、そもそも天使とはどのような存在なのでしょうか?
今回は天使の階級やその種類、悪魔との関係などをご紹介します。
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目次
天使
天使とは
天使とはキリスト教をはじめとする世界中の様々な宗教で語られる伝説上の存在です。天使は神の使いとして人間と接触するとされており、宗教によって語られる姿や特徴には多少の差異があります。
画像:Guardian Angel
また、基本的には霊的あるいは超常現象的な存在であるとされており、世間一般的には幸福をもたらすポジティブなイメージを持たれています。
天使の名前の由来
日本語での「天使」という名前は、そのまま「天から神に遣わされた者」という意味があります。また、英語の「Angel」の語源はギリシャ語であり、「伝える人」を表すアンゲロス(angelos)という言葉が元になっています。
画像:William-Adolphe Bouguereau
他にも「秘密の使い」を意味するペルシャ語のアンガロスや、古代インドで「神の霊」を意味したアンギラスもAngelの語源ではないかといわれることがあります。
いずれにせよ同じような意味の言葉が各地で似た発音をされていたことも非常に興味深いといえます。
語り継がれる天使の特徴
伝承される天使についてはそれぞれの宗教によって様々な解釈が存在しています。ここでは宗教ごとの天使の伝承をご紹介します。
①キリスト教の天使
キリスト教において天使は、主の使いとして人類に神のお告げを伝えに来る存在であると伝承されています。また、天使たちは人類を守り導く神聖な役目であると考えられています。
このようにキリスト教の天使は基本的に伝令を主な仕事としています。しかし、「ヨハネの黙示録」の中では天使が悪魔と戦ったり、ラッパを吹くことで災いを呼び寄せたとする記述も残っています。
画像:Chiesa Ortodossa Russa
また、現在では背中に翼を持った姿で描かれることの多い天使ですが、初期のキリスト教においては天使に翼は存在しませんでした。その姿も肉体を持たない霊的な存在であったり、肉体があっても男女の差がない中性的な存在であると考えられていたようです。
さらにキリスト教には「守護天使」という考え方があり、教徒一人ひとりに天使が寄り添っているとされています。この守護天使は教徒の信仰を守り、悪を退ける力を持つと考えられているのです。
②イスラム教の天使
イスラム教における天使はキリスト教と同じく神のお告げを人類に伝える使いとして伝承されています。イスラム教の天使は神と人間の中間にあたる霊的な存在だと伝えられています。
また、この天使は人類だけでなく神を助ける様々な役割があると考えられており、死を司り生物から魂を引き離す天使も存在するとされています。
画像:Edinburgh University Library
生前の善行悪行による死者の裁きの記録も天使の仕事だとされており、普段は天上にいて神の側に付き添っていると考えられています。
キリスト教と同じく終末の審判では天使がラッパを吹くと伝承されており、それによって災いが訪れるといわれています。この終末の天使は空にまで届くほどの巨体であるといわれています。
③ユダヤ教の天使
天使信仰の元となったユダヤ教に伝わる天使は非常に巨大であることが特徴です。例えばユダヤ教の双子の天使「サンダルフォン」と「メタトロン」に至っては世界の半分に匹敵する大ききであると伝承されています。
画像:Mosaici del battistero, gerarchie angeliche
ユダヤ教の天使も神の使いであることには変わりありませんが、悪を代表する存在であるサタンと戦うなどの伝承が残っています。また、罪を犯した天使を裁いたり、自分に背く者を処刑するという過激な一面も語り継がれています。
他宗教に比べて異質な伝説の多いユダヤ教の天使ですが、キリスト教の天使との共通点も多く存在しています。
④仏教の天使
あまり知られていませんが、仏教にも天使に当たる存在がいるとされています。仏教における天使は「天部」や「童子」と呼ばれており、菩薩や明王に使える従者であると伝えられています。
また、仏教における天使は西洋の霊的なものとは異なり、神とされる菩薩や明王よりも人間に近い存在であると考えられています。
画像:pixabay
仏教の天使は人間に近い存在であるとされながらも、伝承自体は西洋の天使に似通っています。そのためキリスト教の天使や精霊という考え方が仏教に取り入れたものだと考えられています。
こんなにある天使の階級
各宗教で語られる天使はすべてが同じ階級にあるわけではなく、それぞれが位で分けられています。ここでは天使の階級についてご紹介します。
①熾天使
熾天使(してんし)は数ある階級の中でも最上とされている天使階級であり、キリスト教では「セラフィム」とも呼ばれています。熾天使には「燃える天使」という意味があり、これに該当する天使は文字通り体を炎に覆われているといわれています。
画像:Giotto di Bondone
メソポタミアに栄えた古代カルデアの神話には体が炎で覆われた蛇が登場しており、これをユダヤ教が天使として取り入れたのが熾天使の起源であると考えられています。
キリスト教に伝わる悪魔の王ルシファー(サタン)も堕天使になる前はこの熾天使であったとされています。熾天使は6枚の美しい翼を有していますが、ルシファーは特に美しい12枚の翼を持っていたと伝承されています。
②智天使
智天使(ちてんし)は天使階級の第二位に当たる階級でキリスト教では「ケルビム」とも呼ばれています。旧約聖書の創世記では禁断の果実を食べたアダムとイヴを追放した後、神がエデンの園の番人として配置したのがこの智天使だとされています。
画像:cherubim
智天使は4つの顔を持つとされており、それぞれが人間、ライオン、牛、鷲の顔をしているとされています。また、智天使は4枚の翼で空を高速で飛ぶといわれており、神を運ぶ乗り物としての伝承も存在しています。
メソポタミア文明や古代エジプト文明の元となったアッシリアに伝わる人面獣の守護者が、智天使のモデルになったと考えられています。
③座天使
座天使(ざてんし)は天使階級の第三位に位置する階級であり、キリスト教では「ソロネ」や「スローンズ」と呼ばれています。
画像:The mosaic ceiling of the Baptistery
上級天使である座天使は神の王座を運ぶ役割があり、炎に包まれた車輪の姿をしているともいわれています。有名な天使であるラファエルは、この座天使の指揮官であったとされています。
④主天使
主天使(しゅてんし)は天使階級の第四位に位置する階級であり、「ドミニオンズ」や「キュリオテテス」と呼ばれることもあります。主天使は中級天使に該当し、その名前には「支配する」という意味がありました。
画像:Guariento di Arpo
主天使は神の威厳を人類に知らしめる役割があると考えられており、美術作品などでは手に笏(しゃく)を持った姿で描かれています。「慈善の天使」として有名な「ザドキエル」はこの主天使であるとされています。
⑤力天使
力天使(りきてんし)は天使階級の第五位に位置しており、「デュナミス」と呼ばれることもある階級です。力天使は「奇跡」を司る天使であり、その力によって英雄に勇気を授けると考えられています。
画像:Council of Seven Holy Archangels
キリスト教の伝承によれば、イエス・キリストが天に召される際に付き添ったのも、この力天使であるといわれています。
⑥能天使
「エクスシア」とも呼ばれる能天使(のうてんし)は、天使階級の第六位に位置する階級です。能天使は英語圏では「パワー」とも呼ばれており、神の掟を実行する天使であるとされています。
画像:Herrad of Landsberg
能天使は天地創造にも関わった天使であり、人類を導く存在であるといわれています。また、人類よりも4段階高次の意識を持っているとされています。
⑦権天使
権天使(けんてんし)は天使階級の第七位に位置する階級であり、キリスト教では「アルヒャイ」や「プリンシパリティ」と呼ばれることもあります。また、この権天使から下の天使は「下位天使」に該当します。
画像:Guariento di Arpo
権天使は国の指導者や権力者の守護天使であると考えられており、悪魔から国の滅亡を防ぐ存在だとされています。
⑧大天使
大天使(だいてんし)は天使階級の第八位に位置する階級です。この大天使より下の天使は、階級を持たない一般的な天使として扱われています。
大天使という名前は、神が人類に遣わせた中でも特に偉大な天使であることから付けられました。上位の天使階級との違いとしては、大天使は神と人類のあいだに立つ「連絡係」を主な役割としているところです。
画像:Guido Reni
これに該当するのは有名な「ガブリエル」と「ミカエル」であり、詳しくは次項で触れますが聖書の中でも特に重要な役割を果たしています。
ガブリエルとミカエルにラファエルを加えた「三大天使」は非常に有名な天使であるため、キリスト教に詳しくない方でもその名前を聞いたことがあるのではないでしょうか?
有名な天使の種類
世界各地には数多くの天使信仰が存在しています。これらの天使とは一体どのような存在なのでしょうか?
ここでは伝承される有名な天使についてご紹介します。
①ガブリエル
ガブリエルはユダヤ教、キリスト教、イスラム教など様々な宗教に伝承される三大天使のひとりです。その名前は「神の人」を意味し、聖書においては神のお告げを人類に伝える役割を果たしています。
美術作品などで描かれるガブリエルは美しく柔和な表情の青年であることが多く、人類にとってまさに神から遣わされた希望の光として表現されています。
画像:Jan van Eyck
ガブリエルはイエス・キリストに洗礼を授ける「洗礼者ヨハネ」の誕生を告げたり、キリストの誕生を聖母マリアに告げるなど「生」に関わる伝令をこなしています。その反面で最後の審判ではラッパを吹き鳴らして死者を甦らせるなど「死」に関わる働きもしているのです。
イスラム教においてガブリエルは最高位の天使として扱われており、1600枚の翼と両目のあいだに太陽が埋め込まれた姿であると伝承されています。
②ミカエル
ミカエルはガブリエルと並んで知名度の高い天使です。熾天使と位置付けられることもあり、各宗教において最も偉大な天使のひとりとされています。
ミカエルという名前には「神に似たなもの」という意味があり、日本の教会では「ミハイル」と呼ばれることもあります。
画像:Simon Ushakov
ミカエルは「死」を司る天使であるといわれており、左手には人間の魂をのせる天秤を持っているとされています。また、美術作品では右手に剣を持って描かれることが多く、その切っ先は炎に包まれています。
ちなみにミカエルやガブリエルは最高位の天使とされていますが、天使階級では第八位に当たる大天使に属しています。これは大天使が天使階級の最高位と考えられていた時代の名残りです。
③ウリエル
ウリエルはガブリエルやミカエルと並んで「三大天使」に数えられる大天使です。残りの二天使と同じく熾天使として扱われる他、智天使としての一面もあるとされています。
ウリエルという名前には「神の光」という意味があり、「気象」や「自然現象」を司るといわれています。
画像:James Powell and Sons of the Whitefriars Foundry
神の啓示によりノアが方舟を造った「ノアの方舟」の伝承では、このウリエルがノアに洪水を知らせたとされています。また、エデンの園の門を守護する天使としてウリエルの名前が記されています。
④ラファエル
ラファエルは「旧約聖書外典」の中で語られる高位の天使です。三大天使にラファエルを加えて「四大天使」とされることもあり、天使の中でも特別な存在であるとされています。
ラファエルという名前には「神の医者」という意味があり、ユダヤ教では「癒し」を司る天使であると考えられています。
画像:Bartolomé Esteban Murillo
キリスト教におけるラファエルは守護天使を監督するものとして扱われていますが、ユダヤ教ほど重要な天使とされていません。また、イスラム教の伝承では病人や旅人の守護者としてラファエルが登場しています。
堕天使と悪魔の関係
キリスト教によると堕天使とは堕落した天使であり、悪魔とは堕天使のことであるとされています。つまり悪魔とは堕落した天使の姿だったのです。
天使が堕落する理由は複数あるといわれています。例えばエデンの園を守護する智天使は自身が神にも勝る力を持っていると過信したため、堕天使へと堕ちてしまいました。
画像:Gustave Doré
また、神が人間を愛することに嫉妬した天使が堕落して堕天使になったという伝承も存在します。このように天使が高慢な驕りや嫉妬心を持った場合に堕天使になるといわれています。
この他にもルシファーのように自分の自由意思によって堕天使となり、神に謀反起こすケースもあるとされています。
有名な堕天使の種類
天使と同じく世界には様々な堕天使の伝承が存在しています。ここでは特に有名な堕天使についてご紹介します。
①ルシファー
ルシファーは最も有名な堕天使のひとりです。「光をもたらすもの」という意味の名前を持つこの堕天使は、「魔王サタン」と呼ばれることもあります。
堕落したルシファーは同じく堕ちた天使たちのリーダーとなり、堕天使(悪魔)の王として魔界に君臨することになりました。
旧約聖書によると、ルシファーは天使たちの中で最も美しく、知恵に満ちた模範的な存在であったとされています。しかし、創造主である神に対して謀反を起こし、自ら堕天使になったと伝承されています。
②サマエル
サマエルはルシファーに並ぶ力を持つとされる堕天使のひとりです。その名前には「神の悪意」という意味があり、もともとは火星やローマを守る守護天使でした。
ユダヤ教の伝承によるとサマエルは旧約聖書に登場する古代イスラエルの指導者「モーセ」の魂を天国に導く役を務めました。しかし、この任に失敗したことでモーセの怒りを買い、目を潰されて盲目になったといわれています。
画像:Evelyn De Morgan
また、創世記ではアダムとイヴが禁断の果実を食べるきっかけを作った蛇が登場しており、その正体がサマエルだといわれています。サマエルは神に背き人を欺く存在であるため、サタンと同一視する解釈も存在します。
③ベリアル
ベリアルは「無価値なもの」という意味の名前を持つ堕天使です。死海文書に記述されている「光の子達と闇の子達の戦い」において、ベリアルは闇の子達の統率者として登場しています。
ベリアルは神によって「破壊」のために創造され、「闇」を司る存在であるとされています。その目的には常に邪悪が付きまとい、地上に罪を振りまくといわれています。
また、ベリアルは悪魔学においてもその名が知られています。それによるとベリアルは非常に強大な魔王であり、80の軍団を指揮しているとされています。ルシファーの次に創造された高位の天使であり、堕落する前はミカエルよりも階級が上だったともいわれています。
④アザゼル
アザゼルは旧約聖書の「レビ記」に登場する堕天使です。レビ記の第16章では贖罪の儀式について記述されていますが、その儀式の中にアザゼルの名前が記されているのです。
レビ記によると贖罪の日を祝う際には山羊二頭の生贄を用意しなければなりません。そして、一匹を神に捧げ、もう一匹はアザゼルに捧げるとされています。身代わりや生贄に捧げることを意味する「スケープゴート」という言葉が存在しますが、その由来はこの儀式だといわれています。
アザゼルはもともと神から人間を見守るように使命を受けた「見張りの天使」でした。しかし、人間の女性の美しさに心を奪われ、人間と交わるという禁を犯してしまうのです。
しかもアザゼルは自分だけでなく総勢200人の天使を集め、人間の女性と関係を持ったされています。こうしてアザゼルは神の怒りに触れ、堕天使になったといわれています。
出典参考:wikipedia
画像:pixabay
いかがでしたか?有名な天使やその階級についてご紹介しました。天使伝説はユダヤ教の伝承が元になっているようですが、その起源とは一体何だったのでしょうか?世界にはまだまだ不思議が溢れています。