炎と鍛冶の神として知られている「ヘパイストス」。そんな彼には不幸な出生と悲惨な夫婦生活がありました。
今回はヘパイストスの不幸過ぎる誕生秘話や夫婦生活などをご紹介します。
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目次
ヘパイストス
①ヘパイストスとは
ヘパイストス(ヘーパイストス)はギリシア神話に登場する「炎と鍛冶の神」で、ゼウスやポセイドンなどが属する「オリュンポス十二神」のひとりに数えられています。古代インドで信仰されていた火の神がそのモデルとされており、「炉で燃える」という意味のギリシア語がその語源であるといわれています。
画像:Guillaume Coustou the Younger
ヘーパイストスやヘファイストスと呼ばれることもありますが、日本ではヘパイストスと訳されることが多いようです。ヘパイストスは足が不自由な神としても有名でした。
②ヘパイストスの能力
ヘパイストスは炎と鍛冶を司ることにより、神々が持つ様々な「神器」を作り出すことができました。最強の武器とされる天空神ゼウスの「ケラウノス(雷霆)」や、狩猟の女神アルテミスの「アルテミスの矢」、戦略の女神アテナが使用した「アイギスの盾」もヘパイストスが創ったものとされています。
画像:dnd.wizards
他にも、半神半人の英雄ヘラクレスが装備した「胸当て」やアキレウスの「鎧兜」なども手掛けており、ギリシア神話に登場する武具のほとんどはヘパイストスが創ったとされるほどでした。
画像:ertacaltinoz
ヘパイストスは神器を生み出すだけではなく、自身も戦いに参加することでも知られています。英雄アキレウスが河の神に襲われた際には、「消えることのない業火」を発生させ巨大な河を一瞬で蒸発させました。炎と鍛冶の力を駆使するヘパイストスはオリュンポス十二神の中でも非常に重要な存在だったのです。
③ヘパイストスの性格
ヘパイストスは神々のために神器を創っていたため、他の神々たちからはとても頼りにされる存在でした。しかし、産まれると同時に母親に捨てられたことが原因で、決して明るい正確ではなかったようです。彼は職人気質なところがあり、寡黙で大人しい性格でした。
画像:mythologian
一方で愚鈍な面もあり、妻のアフロディーテが浮気をした際は「太陽神ヘリオス」に教えられるまで全く気付くことができませでした。さらには母親に強い不信感を持ち、自身を認めて欲しいという願望から監禁事件を起こしたり、妻の浮気後には禁欲生活に耐えきれずに女神アテナを襲うなど、感情を爆発させてしまうこともあったようです。
④ヘパイストスの誕生
ヘパイストスは「全知全能の神ゼウス」と「最高位の女神ヘラ」の第一子として産まれました。ゼウスはヘラと結婚する前に「掟の女神テミス」と結婚しており、ふたりのあいだには「モイライの三女神」と呼ばれる運命の女神たちが産まれていました。ヘラは正妻としての威厳を示すために優秀な神を産む必要があったのです。
しかし、期待されて産まれてきたヘパイストスは足が湾曲した奇形児でした。これに失望したヘラは怒りのままに産まれたばかりの我が子を海に投げ入れて捨ててしまったのです。母親に捨てられたヘパイストスでしたが、運よく「海の女神テティス」と「エウリュノメ」に拾われ一命を取り止めます。そして成長した後にヘパイストスの優秀さが認められ、ゼウスやヘラが属するオリュンポス十二神に加えられることになりました。
⑤ヘパイストスの母ヘラとの確執
オリュンポス十二神に加入後も母ヘラはヘパイストスを冷遇し続けました。それに我慢できなくなったヘパイストスは宝石が散りばめられた「黄金の椅子」をヘラに贈ります。ヘラは椅子の美しさに魅せられ大喜びしましたが、座った途端に椅子は彼女の身体を拘束してしまいました。贈り物はヘパイストスが仕掛けた罠だったのです。
ヘパイストスは身動きができなくなった母親に「自分を息子であると認め他の神々の前で証明してください!」と要求します。ヘラは息子のいうとおりにすると約束しましたが、ヘパイストスは母親を信じることができず拘束を解けませんでした。そして、母親の軽口を戒めるつもりで最も美しくヘラの自慢であった娘「美の女神アフロディーテ」と結婚させるように要求しました。ところがヘラは自分可愛さからヘパイストスとアフロディーテの結婚を快諾してしまったのです。
⑥ヘパイストスの妻アフロディーテ
こうして夫婦となったヘパイストスとアフロディーテでしたが、その夫婦生活はとても幸せと呼べるものではありませんでした。美を司るアフロディーテは美しくない夫を嫌い、決して心を開かなかったからです。しかし、ヘパイストスは妻が冷たいのは機嫌が悪いだけに違いないと考え、夫婦関係の改善に取り組むことはありませんでした。そのため妻のアフロディーテの心はますますヘパイストスから離れ、浮気を重ねることになりました。
ヘパイストスとアフロディーテの修羅場として最も有名なものが軍神アレスとの浮気の逸話です。妻の浮気を全く疑っていなかったヘパイストスは、あるとき太陽の神ヘリオスからアフロディーテと軍神アレスの関係を知らされます。会話が少ないながらも良い夫婦関係を築いていると思い込んでいたヘパイストスは落胆し、妻に激しい憎しみを覚えました。そして妻アフロディーテと愛人アレスに復讐することを決心します。
画像:playbuzz
ヘパイストスは「見えない網」を寝室に仕掛け、「仕事でしばらく帰れない」と嘘をつき家を空けるフリをしました。すると、これ幸いと愛人を自宅に招き入れたアフロディーテは、裸で抱き合ったままアレスと一緒に見えない網に捕らえられてしまいます。この網は復讐のためにヘパイストスが作り上げた神器だったのです。アフロディーテは浮気の現場をあられもない姿で夫に目撃されることとなりました。しかし、ヘパイストスの復讐はこれだけでは終わりませんでした。
ヘパイストスは自身の神殿にオリュンポス十二神を集合させ、網に捕らえられたアフロディーテとアレスを他の神々の前でさらし者にしたのです。見せられた状況のあまりのおかしさに神々は大笑いをしそうになりましたが、この結婚を取り仕切ったのが最高位の女神ヘラであったため、笑うこともできず必死に笑いを堪えました。しかし、「光明の神アポロン」が「ヘルメスは前からアフロディーテに気が合ったではないか。アレスと変わってもらってはどうか?」と茶化したのに対し、ヘルメスが「そうしたいところではありますが、私はアレスのように立派なモノを持ち合わせておりませんので」と返すと、一同は堪えきれず大笑いしてしまいました。
この空気に居たたまれず解放されたアレスは逃げるように足り去り、残されたアフロディーテも笑ってごまかすことしかできませんでした。神々が大笑いする中ひとりだけ不機嫌そうな顔をしているヘラに対し、ヘパイストスは「母上がくださった嫁はこのようにふしだらな女です。返上いたしますのでお引き取り下さい!」と言い放ちました。大勢の前で恥をかかされたヘラとアフロディーテは逃げるようにその場を後にしました。こうしてヘパイストスはアフロディーテと離婚し、愛人のアレスは賠償を支払うことになります。この裁判はポセイドンが受け持ち、アフロディーテとアレスはオリュンポスから遠く離れた地に別々で謹慎させられることなりました。
⑦ヘパイストスの子どもエリクトニオス
散々な結婚生活に終止符を打ったヘパイストスですが、長きにわたる禁欲生活から遂に過ちを起こすことになります。美しい知略の女神アテナを欲望に任せて襲ってしまったのです。処女を誓ったアテナは必死に逃げ純潔を守り切りますが、ヘパイストスの体液が足に付着してしまいました。アテナが近くにあった羊皮でこれを拭い地面に捨てると、その場所から「エリクトニオス」が誕生したといわれています。エリクトニオスは大地から生まれた者の証とされる蛇の下半身を持っていました。
画像:playbuzz
望まないヘパイストスとの子どもでしたが、アテナはエリクトニオスを育てることを決心します。成長したエリクトニオスはやがてアテナが守護する「アテナイ(現在のギリシャ共和国の首都アテネ)」の王となりました。また、父であるヘパイストスのもとで修業し、強力な「ギリシア戦車」も発明します。欲望に負け犯した過ちからでしたがヘパイストスは子どもを儲け、鍛冶の技も伝承することができたのです。
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出典:wikipedia
いかがでしたか?器用なのか不器用なのかわからない鍛冶神ヘパイストスの逸話をご紹介しました。神をもってしても夫婦とは難しいものなのですね。